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Home >スタッフ・コラム配信 >自己責任論」に思う、災害リスクとの「付き合い方」
「自己責任論」に思う、災害リスクとの「付き合い方」

2004.08.03社会システム政策研究部 山口 健太郎

 「災害はいつ起こるか分からない」し、「起こったところで自分ひとりの力ではどうしようもない」。国ができる限りの施策を講じてくれているだろうから、ひとまず「国に任せておこう」。確かな根拠はないが、災害リスクに対する国民の認識は、おおよそこのようなものではないだろうか。

 かく言う筆者も、つい最近までこの程度の認識であったことは告白しておかねばなるまい。しかし、在外邦人の身柄拘束事件における「自己責任論」の沸騰をきっかけに、安全・安心の獲得に際する公と民との間におけるリスク負担・責任分担の在り方について、しばしば思いをめぐらすようになった。筆者は、あの騒ぎは、「自分ひとりの力ではどうしようもない」リスクについて、誰がどこまで責任を負うべきか、その分担に関する確固たるコンセンサスが、事前に関係者間で形成されていなかったという点が事の本質と考えている。そのような責任分担に関する認識がクリアにならない限り、何か大きな被害が起こるたびに、「国がもっと対応すべきだ」、「いやいや自己責任だ」、「今回は想定外のことがおきたのだから、仕方ない」という、極端な「責任論議」が繰り返されるであろうことは想像に難くない。

 自然現象を相手とする防災事業には、莫大なコストがかかるのが通常である。しかしその一方で、被害の発生はもとより、災害そのものが生起するかどうかについてすら、誰にも確実な予測はできない。幸いにして災害が起こらなかった場合でも、空振りに終わった防災事業に対する国民のコスト負担は残る。このように、災害被害発生の不確実性とコストの大きさという難しい問題が存在する中で、行政に完璧な防災対策を要求することは無理な話である。すなわち、私たち国民は、行政に対して、災害リスクの低減に関する「完全な責任」を求めることはできないということであり、国民もある程度の責任を負わざるを得ないということである。このような認識に立てば、災害リスクの低減に対しては、行政、企業、国民、NPOやボランティアなどの各主体が一体となってこの問題を考え、それぞれにおいてやるべきことは何か、誰が何についてどこまで責任を持って対応するかという、責任分担のコンセンサスをしっかりと形成することが極めて重要となる。

 さて、上記のような責任分担に関するコンセンサス形成に向けて、必要となる第一歩は何か。それは、災害が起こったら何がどうなるか、またどのような防災施策によってどのような被害がどれだけ軽減されるかということを、誰もがリアリティを持ってイメージできるようになることである。それには、これまで様々な研究分野で獲得されてきた知見を統合し、災害発生前から被害の発生時、復興後に至るまでの自然や社会の状態の変化を、実際の空間的・時間的スケールで明らかにすることが必要となる。

 既に、このような観点から注目すべき研究プロジェクトが幾つか動き出している。例えば、科学技術振興機構が推進する研究事業である社会技術研究システム・ミッションプログラムTの地震防災研究グループ(注1)では、様々なシミュレーション技術の統合により、地震発生時における個々の家屋から町全体に至るまでの挙動を予測・可視化する技術を開発し、既存不適格建物解消のための政策設計、個人の耐震改修や地震保険加入のための動機付けなどに関する問題に適用しようとしている。また、この7月に米国で出版された"Modeling Spatial And Economic Impacts of Disasters(災害による経済的影響とその空間的波及のモデル化)"(注2)では、災害の被害や防災施策の効果が、空間や時間を超えて、どのように波及していくかということに関する最新の研究事例が集められている。筆者らによる、ハザードマップの提供が土地市場の変動と均衡に与える影響に関する研究(注3)もここに収録されている。

 「災害リスクの低減に対する責任分担の在り方とは」。この新しい問いに答えを見つけるためにも、上に挙げたような、空間的・時間的スケール観をもった災害研究の発展を望みたい。

注1:社会技術研究システム・ミッションプログラムTの地震防災研究グループ
http://www.ohriki.t.u-tokyo.ac.jp/S-Tech/M1/group_jisin/index.html
http://msd.civil.tohoku.ac.jp/~EDPRG/

注2:Y. Okuyama and S. E. Chang(Eds.), Springer, 2004.
http://www.springeronline.com/sgw/cda/frontpage/0,10735,4-165-22-29965826-0,00.html

注3:Hirokazu Tatano, Kentaro Yamaguchi, and Norio Okada "Risk Perception, Location Choice and Land-use Patterns under Disaster Risk: Long-term Consequences of Information Provision in a Spatial Economy"


当コラムの見解は、必ずしも当社の公式見解を代表致しません。
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